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カフェにて - 02:世界論

駅と大学を繋ぐ道から、一本外れた通りに面しているこのカフェで、私は店主としてコーヒーを淹れております。講義の合間や帰り道に立ち寄る学生さんが多いようで、有難いことに、ご用意した座席が学生さんで賑わう日々を過ごさせていただいております。大学の講義に合わせ、店休日は毎週日曜日、営業時間は朝早めの時間から夜遅くならない時間まで。大型チェーン店のようなお値段にはできませんが、その分、学生さんが長く在席されることは厭いません。美味しいコーヒーとちょっとした甘味を片手に、勉強をする人、本を読む人、楽しくお話する人、そんな学生さんを見ているのは楽しいものです。
そして、お客様の中には、店主である私にも気さくに話し掛けてくださったり、旅行のお土産をくださったり、何年も店を開いていると、それはもう様々なお客様がいらっしゃいます。平生であればお客様の会話には聞き耳を立てておりませんが、そんな中でどうしても、この話題は印象に残ってしまったのです。


「世界って広いし、結局、自分が見える範囲しか解らなくない?」

週に一回程の頻度でご来店くださる、女性三人組のお客様たちです。たまに私にも話し掛けてくださる方たちではありますが、口調からすると私に向けられた話題ではありませんので、勝手には聞くまいと食器磨きに勤しんでおります。それでも私の好奇心は隠せず、彼女たちの会話が耳に入ってしまいました。
「さっきの授業で言ってた、素朴実在論ってやつ?」
「それは、見えたまま存在してるとか言うやつー」
この世界は、自分の眼に見えるものがそのまま存在しているという考えですね。
「じゃあ、観念実在論?」
「それは、概念として存在してるやつー」
そちらは、思考と存在、観念と実在は同一とする考え方になります。
「あの授業よく解んなかったけど、とりあえず実在論から離れよ」
おそらく、先の講義で挙げられたのでしょうか。ただ、今回彼女がお話したいこととは、少し趣旨が異なるようでした。
「地球の裏側で起きてることとか、知りようがないじゃん?
 それって、本当に起きてるか解らなくない?ってこと」
「寝坊した日、本当にアラームは鳴ったのか...みたいなやつ?」
「そういうのそういうの」
お三方は、あー、と頷き合うように相槌を打ちました。哲学でよく取り上げられる、有名な命題ですね。
「でも、見えてる部分も、そんなに意識して見てないよね」
「私、マスターが一個前に磨いてたカップの色も解らん」
その言葉に、お三方が一斉にこちらへ振り向きます。ここで視線が合ってしまっては、聞き耳を立てていたことが知られてしまいます。私は動じることなく、粛々とカップを磨き続ける置物だと思っております。ちなみに、先ほどは透けるような青で有名な、白地に青柄のマイセンのカップを磨いておりましたね。
「え、解らん。白率高くない?」
「ワンチャン青?」
「それ、覚えてるとかじゃなくて、確率論だよね」
視界の端に入っていたとしても、意識して覚えていない限りはそんなものです。
「マスター、急にごめんなさい。一個前に磨いてたカップって何色でした?」
「白地に青い柄のカップでしたよ」
「ありがとうございますー」
回答を得たお三方は、またテーブルを囲むように座り直しました。
「当たりー」
「だから、確率の問題じゃん」
私の背に並ぶ食器棚には、確かに白地のカップが多く見られますからね。

「それ言ったら、私視野狭いからなー。
 自分と友だちと彼氏、イコール世界の全部かもー」
「それ、ちょっとエモいね」
えも... “Emotional” の意でしょうか。いや、 “えもいわれぬ” かもしれません。若者言葉にも語源はあるのでしょうから、後ほどゆっくり調べさせていただきましょう。そう言えば、以前 ”ヤバい” の多段活用をお聞きして、調べようと思ったことも思い出しました。この機会に、一緒に調べたいところですね。
「え、ってか彼氏?いつから?」
「今日からー」
「速報すぎる」
あまりにも速報すぎませんか。いえ、そんなことよりも、
「...コーヒー飲んでる場合じゃなくね?」
そう、そうです。それを言いたかった。


何はともあれ、しっかり聞こえておりますので、お幸せを祈ります。
今後は是非、彼氏さんともご来店くださいませ。


20241121
blue
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