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06. また誰かが来たようだ

朝と言うには遅い頃、日の当たる明るい部屋で。
その日、ファイとエフは静かに寝転がったままで、囁くような声で言葉を交わす。
(今日はお休みの日?)
小さな声でこっそりと問いかけるエフに、ファイは小さな頷きで返した。二人で過ごすことの多いこの部屋だが、今日は二人以外の人影が居る。その人影は、布団に寝転がる二人の体を優しく抱いて、抱きしめるような体勢でリビングのソファに腰掛けた。
(あまり目立ったことはしないでね)
ファイは囁くように言いながら、心配そうにエフを見た。

≪ピンポーン...≫

つい先日二人を叩き起こした電子音が、この日もまた、鳴り響いた。その時の驚かされた記憶が蘇ったのか、エフは、壁の少し高い位置に設置された小さな画面を睨みつける。
「はーい」
小さな画面を覗いて玄関の方へ向かっていく人影を、エフは目で追い掛けた。この音が鳴ったら返事をして玄関に行けば良いのか、と新たな発見をしたかのようにエフは目を見開くが、ファイはその様子を察したのか、だめだよ、と静かに柔らかく否定した。

ダンボールを片手に玄関から戻った男は、ソファに座っている女にその箱を手渡した。
「あー、再配達お願いしたやつ。ありがとう」
それまで抱いていた二人をそっと横に避け、新しいおもちゃの箱を開けるかのように、女はいそいそとダンボールを開ける。手に持ったカッターがテープを裂き、空になったダンボールは手際よく平たい板に潰された。
器用なものだな、と一連の流れを見ていたファイだが、視界の端にまた目を輝かせたエフを見つけて、心配そうに見つめる。エフは一瞬ファイの方を見て、何かを思い出したかのように渋々と寝転んだ姿勢に戻る。目立ったことをしないように、というファイの言葉を思い出したようだ。

ファイは、鳴り響いたインターホンと "再配達" の言葉から、先日の訪問者が宅配便であったことに気付く。納得したと同時に、やはり唐突な音は驚くものだ、と小さなため息をついた。腑に落ちない顔で居るエフに少しだけ近付いて、ファイは小さく声を掛けた。

家まで荷物を届けてくれる、宅配便というサービスがあること。
受け取りができなかった時は、こうして別の日に再度届けてくれること。
それは、インターネットで注文した物だったり、遠い友人からの贈りものだったり。
人と人が、物のやり取りをする時に使われるということ。

(じゃあ、僕は使えないんだ)
(そうだねぇ...)
残念そうに呟くエフに、 "好奇心旺盛" という言葉を思い浮かべながら、ファイは小さく笑った。


空の色が少し赤みを帯びてきた頃、窓の外を見た男が、ソファに座る女に声を掛ける。
「夕飯、何にする?」
女は読んでいた本から顔を上げて、んー、と考えるように目を細めるが、少し思案したものの回答が思い浮かばなかったようで、細めた目のまま困った顔をした。
「とりあえず、買物に行くかね」
回答すると同時にゆっくりと立ち上がって、少し背伸びをした。
「この時間なら、少し涼しくなったかな」
問うような、独り言のような言葉と同時に窓を開けた男は、やっぱり暑いかも、と苦笑いしながらすぐに窓を閉める。
少しして、二人の人影が玄関から出て行った。

人影が無くなった部屋で、息を詰めるように大人しくしていた二人。ようやくひと心地と言わんばかりに、緊張を解して息を吐いた。
「相変わらず、僕たちと同じくらい動かないね」
ほぼ半日ソファに座って過ごしていた二人を、エフは面白そうに笑う。ファイも同意こそしなかったが、何とも返しづらいといった様子でこっそり笑った。
「毎日外に出ているし、週に一回くらいゆっくり過ごしたいんじゃない?」
今日はお休みの日だからね、と精一杯のフォローをするファイに、なるほど、とエフは頷いた。


この後帰宅した男女は、簡単な料理を作ることにしてキッチンに立つ。
最近お気に入りの料理コーナーが目の前で始まるのかと、飛びつかんばかりに目を輝かせるエフと、それを必死に押さえ込むファイの熱い戦いが始まるのだった。


20230906
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