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04. 誰かが来たようだ

ファイとエフが起き上がるのは、朝と言うには遅い頃が多い。
しかし、その日は思わぬ音で、いつもよりも早い時刻に二つの体が起き上がった。

≪ピンポーン...≫

聞き慣れない音に驚いて、エフはビクッと体を震わせて起き上がった。
「な、何?」
「...誰かが来た音だと思う」
さすがのファイも唐突な音に驚きを隠せなかったようで、エフの顔を見ながら、落ち着かない声色で返す。ファイは壁の少し高い位置に設置された小さな画面を観て、先の回答が合っていたと言うように、小さく二つ頷いた。何故か息を潜めるように声量を控えるファイに、エフも倣うように小さく頷いて返すだけだった。

≪ピンポーン...≫

同じ音がもう一度鳴って、二人はまた顔を見合わせる。特にエフは、慣れない音に驚いてばかりで、強張るように力が入っているようだ。画面の表示が消えて「大丈夫だよ」とファイが声を掛けると、詰めていた息を吐き出すように床にへたり込んだ。
「びっくりした...」
普段であれば一度起きても何度も寝転がろうとするエフだが、唐突な緊張感に目が覚めたようで、振り絞るような呟きを零しては小さく息を吐く。宥めるようにエフの頭を撫でるファイも、寝起きに鳴り響いたその音にはさすがに驚いたようで、こっそりと溜息のような息を吐いた。
そうして、徐々に日が差して明るくなっていく部屋で、いつもより早く起こされた二人は抗えない眠気に誘われるように、うとうととうたた寝を始める。普段はエフの寝直しを引き留めるファイも、この日ばかりは並んで目を閉じた。


日中、暑くなる前にこっそりと空調の電源を入れるファイが、暑さのせいか寝苦しさで目を覚ます。室内は、最早うたた寝をするような気温ではなかった。
「あっつ...」
思わず零れた言葉と共にデジタル時計を見遣ると、ファイは見たことの無い気温と湿度に、慌てて空調のリモコンを探す。テーブルに手を伸ばすが、茹だるような蒸し暑さのせいか、思うように体が動かない。
「エフ、起きて...」
ファイは隣で寝転ぶエフに声を掛けるが、その声は情けない程にか細く、当然、エフを起こせる気配は無かった。その間もじりじりと上がる気温と、気怠さで思うように動かない体。このままではエフも自分も死んでしまうのではないかと、ファイは不安で泣きそうな顔をして項垂れた。

「...あづい!」
「うわぁあ!!」
突然大きな声と共に起き上がったエフに、ファイは心底驚いて声を上げる。朝方、来訪者が鳴らした呼び出し音にも少なからず驚いていたファイだが、その比ではない。そんな様子を気にもせず、エフは探るように周辺を見回した後、テーブルに置かれたリモコンを目掛けて勢いよく手を伸ばした。バシッ!という大仰な打突音の後に、高い場所から≪ピピッ≫という電子音が鳴る。驚きで目を丸くするしか無かったファイだが、少しずつ部屋に流れる涼しい風に、今度は安堵で泣きそうな顔をして項垂れた。


しばらく経ってようやく普段の居心地を取り戻した部屋で、ゆっくりとエフが起き上がる。これまでの経緯など、知る由も無い。
「何か...今日、体重いね」
相変わらずマイペースに眠そうな目を擦るエフに、ファイは気の抜けた笑いを一つ。大変だったんだよ、と笑うファイに、エフは首を傾げた。

デジタル時計に表示される、気温と湿度について。
この数字が低すぎても高すぎても、体に良くないということ。
特に湿度の数字が大きくなると、何故か体が重たくなること。
これを調整する機械があって、リモコンで操作できること。

「まあ、エフは教えなくても使えてたけどね」
ファイはいつもの教える口調の後に、思い出したように笑ってリモコンを手に取る。ファイがボタンを押すと、高い場所から≪ピー≫という音が鳴って空調が止まった。エフは、何のこと?と首を傾げたが、ファイはそれ以上のことは言わずに微笑むだけだった。


20230831
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