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クリアなせかいで

冬の手前
冷えた空
澄んだ風



凛とした空気が好きだ。
其れを得るには、冬の早朝しかない。
夜じゃ駄目。
夜も勿論好きだけれど、冷たいけれど、綺麗じゃない。
まあ、あの汚い夜が好きだと言えば、そうだけれど。

でも、違う。
今求めているのは、早朝の風。
冷たく澄んだこの空の、類似品なんて要らない。


「うー...さみぃ」
誰が聞くでも無い言葉を呟いて、肩を竦めて背を丸める。
自分はいつもより小さくなって、家の玄関から出て行く。

ふ、と空気を吸う。
其の、清涼感。
冷たさを感じられる、其の匂い。
そして、自分以外に音の無い周囲。
明るいくせに、綺麗なくせに、残酷な風景。

誰も居ないし、何も無い。
其れこそ、クリアな世界そのものだ。



さあ、暖かい缶珈琲でも買って、家に戻ろう。
冷たい空気に目を細めて、昇りかけた太陽に背を向ける。
近所の酒屋にある自販機まで、徒歩3分。
両方のポケットに100円玉が1枚ずつ。
其れを握るように、両手を其々のポケットに入れて。
グ、と握ったら足取りは軽く、道にならない細道を歩ける。



小さく吐いた吐息は、口元で白く濁り、消えて。
濁り、消えて。
此れ以上日が昇れば、此の澄んだ空気も濁り、消えて。
濁り、消えて。

とりあえず今だけは、クリアな世界で。



051102
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