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疚しい皮膚

「...ねぇ、」
手を伸ばせば掠めるであろう相手の背に、触れる事もせず声を掛けた。

触れればきっと、温度が移る。
冷たそうな顔をして、案外温かい彼の腕と、
子供体温だと普段言われるのに、セックスの後は冷たい私の指先と。

触れ合うのは、其れこそ隠れるようにしたセックスの時だけ。
だって、そうそう触れないでしょう?

「あの子に、怒られちゃうね」

友達の彼氏と抱き合って、
キスをして、セックスして。
だから如何って事も...無いけれど。

「煩い」
「どんな気分?彼女の友達抱いて」
彼は、黙った侭其の一言だけを返して。
此方を振り向く事も、無い。

「ねぇ、...何で?」

こうなった、こんな事をした、其の理由。
人聞きの良いだけの理由じゃなくて、自分を説得できる理由を、彼に求める。
例え明日...否、此の後、彼女サンと擦れ違っても、何食わぬ顔で笑うのだろう。
平生通りの挨拶を交わして、笑顔で。

そんな自分が、凄く、嫌い。
余りにも嘘が上手くて、嫌い。


「もう時間だろ?行くぞ」
時計を見遣った彼は、乱雑にばら撒かれた服を手にして。
身を整えながら、溜息を吐いた。
「...うん」
同様に脱ぎ捨てた、服を、身に纏って。
髪を整えて、口紅を直して。
そうして其の場で別れて、別の場所でまた飄々と彼に逢う。
彼と、彼の彼女と、逢って、笑う。


込み合った大学の廊下で、彼と彼の彼女と顔を合わせる。
軽い挨拶と、彼女サンの可愛らしい笑顔。この笑顔、好き。
擦れ違い様、僅かに触れた自分の手と彼の腕。
彼女サンに後ろめたいと言えば、まだ救いようがあるのにね。



凄く、疚しくて、

掠めた肌にさえ、欲情した。



051025
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