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  <title type="text">アオイハコ</title>
  <subtitle type="html">テキスト</subtitle>
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  <updated>2009-06-20T09:37:15+09:00</updated>
  <author><name>一緋月 青</name></author>
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    <published>2030-12-31T00:00:00+09:00</published> 
    <updated>2030-12-31T00:00:00+09:00</updated> 
    <category term="memo" label="memo" />
    <title>書き散らし</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[■書き散らし　[ new&uarr;　old&darr; ]<br />
　いつかどこかで思ったこと<br />
　いつかどこかで使えるかもしれない<br />
<br />
<br />
2013/05/15<br />
ごめん。今、何も楽しくない。<br />
「もう、一緒に死んじゃおうよ」<br />
あの時、頷いてあげれば良かった。<br />
あの時、私の手で殺してしまえば良かった。<br />
<br />
2013/05/14<br />
「9歳の危機」って初めて知った。教育学って専門外だったからなぁ。<br />
その頃自分は．．．ああ、少なからず、当時の環境は多大な影響を含んでいる。<br />
<br />
2013/05/14<br />
死んでしまえばいい。いっそ、同情でもされるだろうか。<br />
耐え続ければいい。いつか、同情でもされるだろうか。<br />
<br />
2011/07/09<br />
もういいよ<br />
大好きな人が、諦めたように呟く。<br />
ああ、私はもう必要無いんだ。って。<br />
零れる涙と共に、眼が覚めた。<br />
<br />
2009/12/08<br />
大丈夫。大丈夫。<br />
声にせず、それを頭の中で巡らせた。<br />
おまじないのように繰り返す。<br />
だいじょうぶ。だいじょうぶ。<br />
<br />
2009/08/31<br />
どっかいっちゃった<br />
大事にしてたはずなのに<br />
<br />
2009/06/23<br />
気ぃ抜いてると、居なくなっちゃうかもね。<br />
彼の脅迫めいた言葉に、私は固まるしかなかった。<br />
いつだって、こうして置いていかれる。<br />
行かないで、行かないで。<br />
<br />
2009/01/15<br />
意見の合うことも、例えば合わないことも、全部話しておきたいのにね。<br />
意見が合わずに反論したら、それはあの人にとって嫌なことのようだ。<br />
<br />
2008/12/23<br />
以前は、意外と軽く問えた気がする。<br />
いつからか怖くなって、<br />
今じゃ聞こうかと考えることも無い。<br />
「私のこと、どう思ってる？」<br />
<br />
2008/11/03<br />
例えばそれが冗談でも、本気でも。<br />
友人が、私を好きだと言ってくれた。<br />
異性として応えることは出来ないけれど。<br />
自信が無い、なんて言っている暇は無い。<br />
<br />
2008/08/17<br />
余所見をする時間すら惜しくて前ばっかり向いて、ただ馬鹿みたいに走っては居るけれど。例えばこれが、自分以外の誰にも認められなくても、自分は前ばっかり向いて居られるのかしら。<br />
そんな事をほんの少しだけ考えて、また前を見た。<br />
余所見をする時間なんて、無いんだから。<br />
<br />
2008/05/31<br />
そんな、今更な思い出話じゃなくて。<br />
今、ここで、 要らない って。<br />
言われることを、怖がってる。<br />
<br />
2008/02/22<br />
何がそんなに、泣く程のことなのか。<br />
今にも泣きそうなアタシは、そう思考する。思考することで、この感情を抑えたかったのかもしれない。<br />
<br />
2008/02/17<br />
それで、うっかり泣いちゃったわけなんだけど。<br />
何か変わったとすれば、<br />
ただ、<br />
（思ってた以上に好きなんだなぁ）<br />
ってことだけ。それだけさ。<br />
きっと向こうにとっては、何も変わり無いんだよ。<br />
だから、凄く、疲れた気がするのかもね。<br />
<br />
2008/01/28 <br />
いつか、もうすぐ、離れるんだって。<br />
泣きそうだ。好きだとかそういうのはさて置き。<br />
ただ<br />
甘えてるのもわかってて、<br />
それでも<br />
近くに居てほしいんだって。<br />
これが恋とか愛とか言うならば、アタシはそれでもいいや。<br />
<br />
2008/01/27<br />
世間って、こんなにも邪魔なモノだったっけ？<br />
<br />
2007/12/27<br />
汚いぼくと、綺麗なきみと、世界がそれで成り立っているなら。<br />
ぼくはずっと汚いままで、きみに泣かされるのもいいかもね。<br />
<br />
2007/11/15<br />
今まで自分が必死になって重ねてきた感覚や自信は、親の一言で簡単に崩れる。<br />
彼がそう言うならば、きっとアタシは、本当に要らないのだ。<br />
<br />
2007/09/13<br />
アタシは人間。アタシは汚い。<br />
だから、人間は汚い。<br />
それでも、世界は綺麗で在ろうとしているよね。<br />
いっそ人間が失せてしまえば、全ては綺麗に在れるだろうに。<br />
<br />
2007/07/26<br />
何処で殺せばいいんだろう。<br />
<br />
2007/07/19<br />
消えて無くなってしまえ<br />
そんな事を呟いた自分は、何よりも真っ先に消える事を祈っているよ。<br />
<br />
2007/07/05<br />
泣いたって変わらないのさ。<br />
悪い事が泣いて好転する訳でも無し、悪化が留まる訳でも無し。じゃあ、何で態々泣くんだろうね。例えば其れが無駄ではないと言うならば、其れが無駄ではないと言う、其の理由を、誰か納得させてよ。<br />
そんな事を少しだけ考えて、また泣いた。<br />
<br />
2007/07/04<br />
皆溶けて消えて居なくなって<br />
居なくなって、<br />
いつか誰かが さようなら を言った<br />
<br />
2007/06/16<br />
例えば一緒に消えてしまいたいだとか、あの日から何度も何度も思ったけれど。結局、消えるなんて事は簡単には出来なかった。一人になってからも、ずっとずっと生きていかなきゃいけないんだって。ちゃんと解った。其のために、アタシは何かに縋りたかったのかもしれない。まだ女になりきれないアタシは、男友達に抱かれる事で泣きそうな今日を潰した。<br />
でも、一人になってから泣いた。<br />
<br />
2007/05/17<br />
最愛の人が死ぬって事は、そういう事。<br />
<br />
2007/05/17<br />
「もう大丈夫。さようなら」<br />
って彼女が言ってくれる日を、いつだって待ってる。<br />
<br />
2007/05/02<br />
タイトルメモ<br />
- 『さよならの世界で、』<br />
- 『最果てに見える空の下』<br />
- 『あいれん』<br />
<br />
2007/04/23<br />
死ぬ直前の自分がどんな事を思うのか、至極気になる。<br />
<br />
2007/04/19<br />
彼女の話題を出す度に、眼が泳ぐんだもの。もしも「別れた」って話が嘘なら、アタシは貴方の演技力を尊敬するわ。<br />
<br />
2007/04/12<br />
彼の眉が、不機嫌そうに寄せられる。その歪曲すら美しく感じられて、俺は自らを変態と称する事にした。<br />
<br />
2007/04/11<br />
アタシなんて、生きてきた年数はまだほんの少しの、大した事も無い子どもだけれど。自分というモノの見られ方は、ちゃんと知っている。<br />
体だけを好きだと言う人が居るって事も、知っている。<br />
<br />
2007/04/07<br />
「そうだよ、殺してしまえば？」<br />
「そっか、殺してしまおうか！」<br />
それで全てが解決するって。<br />
此の世界は、何を失くしてしまったんだろうね。<br />
<br />
2007/04/05<br />
自分にとって「良いモノ」は、其れに関する大きな興味を抱かせる力がある。「良いモノ」に出逢えるか否かは、一種の運なのかもしれない。<br />
<br />
2007/04/03<br />
決してまっすぐじゃなくて、幾分歪。<br />
けれど、アタシは其の侭生きたいの。<br />
<br />
2007/04/02<br />
全てを捨ててもいいと思うならば、そうしなさい。家族も友人も恋人も、思い出も写真もデータも、今まで生きてきた軌跡も成果も栄光も富も名誉も、全部全部全部、其処に置いてから行くんだよ。残された人達がキミを記憶して生きていくか、忘れて生きていくか。其れは全く保障出来ないし、以後を知る事も出来ない。其れでもいいと思うならば、そうしなさい。<br />
自殺って、そういう事だと思う。<br />
<br />
2007/04/01<br />
「カミサマなんて嫌いだ、って言う人は、カミサマとか言うモノの存在を信じているんだね。僕はそんなモノの存在を信じようと思わないから、好きも嫌いも無いよ」<br />
ある男が、当然の事のように言い切った。彼は、神と言うモノを信じていないらしい。だから、論ずる余地も無いと言う。<br />
「でも、貴方。貴方の存在は何によって出来たと考えるの？」<br />
神が世界を創ったと信じる人が、彼に其れを問うた。此の人にとっての神は、きっと世界の創造を担ったモノなのだろう。<br />
「母だよ。あの人の腹から生まれた」<br />
「じゃあ、貴方のお母さん、または其のずっと前の人は、何によって生じたと思う？」<br />
「突然変異じゃないかな」<br />
<br />
2007/04/01<br />
綺麗で正しい世界なんて、一つも無いわ。ただ、其処に居るモノたちが一生懸命に信じようとしているだけ。<br />
<br />
2007/03/30<br />
ずっと伝えたかった言葉はいつだって口から零れる遑すら無くて、結局、全てが空の侭潰えていく。<br />
<br />
2007/03/30<br />
「何かが無くなる事」と「全てが無くなる事」は全くの同義のように思えた。お前、其れは違うだろう。って言ってくれる人も居るけれど。ああ、其れが最後の世界なんだ、と思えて、一層泣きたくなった。<br />
無くなる「何か」は、きっと俺にとっての「全て」なのだろう。<br />
<br />
2007/03/24<br />
泣きたくなる言葉をくれる人が大好きで、綺麗で。僕は君を抱いて、汚した君に泣かされたいとか思っていた。<br />
<br />
2007/03/14<br />
全てを残したいと思って足掻くから、全て駄目な気がするんだろうね。欲張りはいけない、と言う単純な話かもしれない。最後は空っぽになって、独りになって、失くしたモノも解らない。其れが一番寂しいようで、実は一番いい。<br />
詰り、気付けない事が幸せ、と言うのも一理ある。<br />
<br />
2007/02/05<br />
自分と言う生物は、世の中で一番単純だと思えるよ。<br />
きっと、誰もがそうなのかもね。<br />
<br />
2007/02/03<br />
自己満足の、何が悪い。<br />
俺は、世界中に見捨てられて死ぬまでだって、そう言って生きたい。<br />
<br />
2007/01/23<br />
最早毎度の事ではあるものの、自分の弱さに泣きそうだ。<br />
<br />
<br />
By blue]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/36</id>
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    <published>2024-12-26T00:00:01+09:00</published> 
    <updated>2024-12-26T00:00:01+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>烏兎</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[不思議なもので、年の瀬が近づくと、古い知人に会いたいと思うことがある。忘年会だ何だと浮かれた世間に振り回されているのか、心残りを清算したいと感じているのか、この思いの出処は解らないけれど。<br />
そんな考えを巡らせながら、俺は前を向いた。学生時代に歩き慣れたその道を懐かしむような心の余裕はなく、待ち合わせているカフェに向かって黙々と歩く。寒さのせいか縮こまるように丸まっていく背中を、半ば無理やり伸ばして。<br />
<br />
到着したカフェの扉を開けば、待ち合わせ相手の姿がすぐに目に入った。店内の暖かさで曇った眼鏡を軽く拭ったが、思うように視界はクリアにならない。入店した俺に近寄ってくれた店員へ一言告げて、彼女が座るテーブルへ歩み寄る。この十年振りの再会に高揚しているのか、緊張しているのか。自身の複雑な心境が把握できないまま、今日を迎えてしまった。<br />
「．．．ご無沙汰」<br />
「お互いね」<br />
ここへ来る道中、いや、再会を決めた日からずっと、何と切り出すべきか悩みに悩んで。捻り出すように吐いた一言は、我ながらあまりにも素っ気ない。しかし、彼女から返された言葉も思いの外シンプルで、それはそれで俺の不安を煽った。マスクの下で震える唇を、食いしばるように浅く噛みしめた。<br />
「何か．．．全然変わってないな。安心した」<br />
高揚も緊張も取り繕う余裕がないのか、思ったままの言葉が口をついて出る。彼女の正面に座って顔を上げると、こちらを見た顔がニヤリと意地悪そうに微笑んだ。<br />
「きみは老けたねぇ」<br />
「何年経ったと思ってんの」<br />
返された軽口に苦笑いして応じたものの、発言した瞬間に（しまった。）という思いが頭を過る。<br />
「こっちの台詞。碌な挨拶もしないでどっか行って、何年経ったと思ってんの？」<br />
彼女は呆れたように溜息を吐いて、ティーポットを傾けて紅茶を注いだ。途中、ふっと小さく笑うように微笑んだ顔は柔らかさを増していて、変わっていないと思いながらも、これはこれで歳をとったのだと思った。丸くなった、などと口にしたら怒るだろうか。<br />
「十年」<br />
そう、十年経った。学生だった自分たちは、明確な理由もないまま付き合って、それが何を意味するか解らないまま別れて、環境が変わって疎遠になった。この歳になって思い返せば、よくある青臭い話だ。<br />
「．．．それで？わざわざ結婚の報告でもしに来たの？」<br />
「んな訳ない」<br />
「違うの？」<br />
あ、今、彼女の気が緩んだ。そう気付いた瞬間、この再会に緊張していたのは自分だけではなかったことを認識して、少しだけ嬉しくなった。<br />
<br />
注文したコーヒーが提供されて、俺はようやくひと心地着いたように、彼女以外の背景が視界に入るようになった。当たり障りのない近況を交わしながら、（今更会わない方が良かったんじゃないか。）とか、（人の気質ってやつはそうそう変わらないものだな。）とか、様々な考えが巡ったけれど。今更のように呼び出した俺に、彼女が会いに来てくれたら、と勝手に賭けていた結果が、今ここに在る。<br />
「俺、やっぱ」<br />
「何言うつもり？」<br />
こちらの意図をいち早く察したかのように、彼女はぴしゃりと俺の言葉を遮った。<br />
「被せてくるじゃん。せめて、言わせて」<br />
困ったように目を細めてみたけれど、自然と笑みが零れた自分に気付く。気恥ずかしくて彼女の顔を直視できないままの落とした視線の端で、不機嫌ではない、対応に困ったような彼女の表情が見えた。眉間に皺を寄せたまま、困ったような表情を隠すように、彼女も俯いたようだった。<br />
「．．．やっぱ、一緒に居る時間、好きだなって」<br />
その一言を伝えたいだけで、こうして彼女を呼び出し、自分も遠路訪ねてきたのだ。改めて考えると、あまりに阿呆らしい。自分も、こうしてここに来てしまった彼女も。<br />
「今更、」<br />
そこで彼女の言葉は途切れ、あからさまな溜息が吐かれた。「馬鹿みたいなことを言うな」なのか、「余計なことを言うな」なのか、などと悪し様に言われるような次の言葉をいくつか思い描いて。少しの間に思い付いた自分の思考に、気が滅入る。<br />
「周回遅れすぎる」<br />
「え？」<br />
続いた言葉は俺が勝手に想像した言葉とは異なり、怒気ではなく、呆れたような声色で返されたことに疑問符を返すしかなかった。<br />
「遅いっつってんの。こっちは昔からそうだよ。<br />
　だから、別れた後すっごい後悔したし、何ならしばらく引きずったし」<br />
彼女は小さく溜息を吐いて、「ま、昔の話」と付け加えるように呟いて笑った。だからといって今更また付き合おうとか、そういうことではない。そう言いたいのだろうか。若い頃は &ldquo;別れる = 連絡を取らなくなる&rdquo; という流れが当然のことのようだった。しかし、歳を重ねて思い返せば、そもそも疎遠になる理由も無かったんじゃないかって。元々、気の合う友人であったはずなのだから。<br />
「ごめん」<br />
「謝んな、ばか」<br />
謝罪の言葉以外には何も思いつかなくて、返す言葉も見当たらないままの間が空いた。<br />
<br />
「．．．また、昔みたいに声掛けてよ」<br />
視線を合わせてもらえないまま、ひとり言のように零された言葉。（ああ、連絡して良かった。）と、声にはせず噛みしめた。<br />
「そうする」<br />
このやり取りが、たとえ浮かれた世間に振り回されたものだとしても。<br />
<br />
<br />
20241226<br />
blue<br />
<br />
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/35</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://bluecage.blog.shinobi.jp/text/17" />
    <published>2024-12-06T00:00:01+09:00</published> 
    <updated>2024-12-06T00:00:01+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>カフェにて - 03：本にまつわる</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[駅と大学を繋ぐ道から、一本外れた通りに面しているこのカフェで、私は店主としてコーヒーを淹れております。講義の合間や帰り道に立ち寄る学生さんが多いようで、有難いことに、ご用意した座席が学生さんで賑わう日々を過ごさせていただいております。大学の講義に合わせ、店休日は毎週日曜日、営業時間は朝早めの時間から夜遅くならない時間まで。大型チェーン店のようなお値段にはできませんが、その分、学生さんが長く在席されることは厭いません。美味しいコーヒーとちょっとした甘味を片手に、勉強をする人、本を読む人、楽しくお話する人、そんな学生さんを見ているのは楽しいものです。<br />
そして、お客様の中には、店主である私にも気さくに話し掛けてくださったり、旅行のお土産をくださったり、何年も店を開いていると、それはもう様々なお客様がいらっしゃいます。平生であればお客様の会話には聞き耳を立てておりませんが、そんな中でどうしても、この話題は印象に残ってしまったのです。<br />
<br />
<br />
「名言集とか面白いけど、文化が違いすぎてミリも同意できん時ない？」<br />
<br />
週に一回程の頻度でご来店くださる、女性三人組のお客様たちです。たまに私にも話し掛けてくださる方たちではありますが、口調からすると私に向けられた話題ではありませんので、勝手には聞くまいと食器磨きに勤しんでおります。それでも私の好奇心は隠せず、彼女たちの会話が耳に入ってしまいました。<br />
「心に沁みる名言を一つ以上選び、自身の意見を述べなさい」<br />
「それー。本探そうと思って図書館行ったら、全部貸出し中だったわ」<br />
「みんな、考えること一緒」<br />
どうやら、講義の課題に挙がったようです。昨今、インターネットで調べれば何でも出てくる時代ではございますが、図書館に足を運ぶという学生の営みは変わらないようで、私としても微笑ましく見守りたいところです。<br />
「んで、ちょっとググってみたんだけど．．．これとか」<br />
名言を取り上げたページを開きながらでしょうか、スマホの画面をスクロールしながら、彼女は目についた名言を読み上げました。<br />
「書物なき部屋は魂なき肉体のごとし。キケロ」<br />
本棚に並んだ背表紙を眺めるだけで、充足感がございますよね。凝った装丁のハードカバーなど、少々お値段は張りますが購入してしまうものです。文庫化されて、同じサイズの本が行儀よく整頓されるのもまた一興です。<br />
「．．．本、好きすぎでは？」<br />
いつの時代も、本好きとは似たものです。しかし、書籍も売上が低迷していると聞きますし、最近の方は本を読まなくなっているのでしょうか。<br />
「電子書籍とか聞いたら、キケロくん卒倒するかな」<br />
ああ、なるほど電子書籍ですか。便利になりましたよね。<br />
「キケロくんって、友だちみたいに言うじゃん」<br />
「いや、他に何て呼べばいいの」<br />
確かに、過去の偉人などに敬称を付ける機会は少ないですね。歴史上の人物も、敬称を付けずに暗記することがほとんどでしょうし。ふと疑問に思ったのですが、日本語の敬称はどうやって成り立ったのでしょうか。今度調べてみましょう。<br />
<br />
「私たちは『あれは読んだよ』というために読むのである。ラム」<br />
知識としての書物ということか、話題のための書物ということでしょうか。時代によっては、書物自体が豊かな生活の指標にもなったのでしょう。<br />
「これは解る気ぃするー」<br />
「マンガとかそうじゃない？流行ってるから読む、みたいな」<br />
なるほど、現代日本においては話題のためですね。共通の話題を増やすために、流行を追うようなものでしょうか。情報過多な現代では話題になれば見つけやすいという利点もございますが、話題にならず埋もれてしまうものも多いところが難点です。<br />
「でもさー、流行ってるから読まないって逆張りしたくなる時ない？」<br />
「読んでないって言うために読まない」<br />
読んでいないと言うために読まない、なるほど。それも話題を増やす手段の一つなのでしょう。全ての情報を全ての人が知っているわけではない、という状況が話題の一つになりますからね。勉強になります。<br />
<br />
そうして笑いながら、彼女は一つの名言で指を止めました。<br />
「暗記することは真に知ることではないのです。それだけなら、記憶の中に託されたものを後生大事に守っているだけなのです。モンテーニュ」<br />
「耳が痛い」<br />
「え、同意しかないんだけど？」<br />
耳が痛いですね。私も同意いたします。<br />
「何かさー、結局いつの時代も似たこと言ってんね？」<br />
「課題に合った名言、探せばありそう」<br />
<br />
そう、いつの時代も、人の営みというものはそうそう変わらないものです。<br />
本日も皆さまの課題が無事に完遂されるよう、見守らせていただきます。<br />
<br />
<br />
20241206<br />
blue]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/34</id>
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    <published>2024-11-21T00:00:01+09:00</published> 
    <updated>2024-11-21T00:00:01+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>カフェにて - 02：世界論</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[駅と大学を繋ぐ道から、一本外れた通りに面しているこのカフェで、私は店主としてコーヒーを淹れております。講義の合間や帰り道に立ち寄る学生さんが多いようで、有難いことに、ご用意した座席が学生さんで賑わう日々を過ごさせていただいております。大学の講義に合わせ、店休日は毎週日曜日、営業時間は朝早めの時間から夜遅くならない時間まで。大型チェーン店のようなお値段にはできませんが、その分、学生さんが長く在席されることは厭いません。美味しいコーヒーとちょっとした甘味を片手に、勉強をする人、本を読む人、楽しくお話する人、そんな学生さんを見ているのは楽しいものです。<br />
そして、お客様の中には、店主である私にも気さくに話し掛けてくださったり、旅行のお土産をくださったり、何年も店を開いていると、それはもう様々なお客様がいらっしゃいます。平生であればお客様の会話には聞き耳を立てておりませんが、そんな中でどうしても、この話題は印象に残ってしまったのです。<br />
<br />
<br />
「世界って広いし、結局、自分が見える範囲しか解らなくない？」<br />
<br />
週に一回程の頻度でご来店くださる、女性三人組のお客様たちです。たまに私にも話し掛けてくださる方たちではありますが、口調からすると私に向けられた話題ではありませんので、勝手には聞くまいと食器磨きに勤しんでおります。それでも私の好奇心は隠せず、彼女たちの会話が耳に入ってしまいました。<br />
「さっきの授業で言ってた、素朴実在論ってやつ？」<br />
「それは、見えたまま存在してるとか言うやつー」<br />
この世界は、自分の眼に見えるものがそのまま存在しているという考えですね。<br />
「じゃあ、観念実在論？」<br />
「それは、概念として存在してるやつー」<br />
そちらは、思考と存在、観念と実在は同一とする考え方になります。<br />
「あの授業よく解んなかったけど、とりあえず実在論から離れよ」<br />
おそらく、先の講義で挙げられたのでしょうか。ただ、今回彼女がお話したいこととは、少し趣旨が異なるようでした。<br />
「地球の裏側で起きてることとか、知りようがないじゃん？<br />
　それって、本当に起きてるか解らなくない？ってこと」<br />
「寝坊した日、本当にアラームは鳴ったのか．．．みたいなやつ？」<br />
「そういうのそういうの」<br />
お三方は、あー、と頷き合うように相槌を打ちました。哲学でよく取り上げられる、有名な命題ですね。<br />
「でも、見えてる部分も、そんなに意識して見てないよね」<br />
「私、マスターが一個前に磨いてたカップの色も解らん」<br />
その言葉に、お三方が一斉にこちらへ振り向きます。ここで視線が合ってしまっては、聞き耳を立てていたことが知られてしまいます。私は動じることなく、粛々とカップを磨き続ける置物だと思っております。ちなみに、先ほどは透けるような青で有名な、白地に青柄のマイセンのカップを磨いておりましたね。<br />
「え、解らん。白率高くない？」<br />
「ワンチャン青？」<br />
「それ、覚えてるとかじゃなくて、確率論だよね」<br />
視界の端に入っていたとしても、意識して覚えていない限りはそんなものです。<br />
「マスター、急にごめんなさい。一個前に磨いてたカップって何色でした？」<br />
「白地に青い柄のカップでしたよ」<br />
「ありがとうございますー」<br />
回答を得たお三方は、またテーブルを囲むように座り直しました。<br />
「当たりー」<br />
「だから、確率の問題じゃん」<br />
私の背に並ぶ食器棚には、確かに白地のカップが多く見られますからね。<br />
<br />
「それ言ったら、私視野狭いからなー。<br />
　自分と友だちと彼氏、イコール世界の全部かもー」<br />
「それ、ちょっとエモいね」<br />
えも．．． &ldquo;Emotional&rdquo; の意でしょうか。いや、 &ldquo;えもいわれぬ&rdquo; かもしれません。若者言葉にも語源はあるのでしょうから、後ほどゆっくり調べさせていただきましょう。そう言えば、以前 &rdquo;ヤバい&rdquo; の多段活用をお聞きして、調べようと思ったことも思い出しました。この機会に、一緒に調べたいところですね。<br />
「え、ってか彼氏？いつから？」<br />
「今日からー」<br />
「速報すぎる」<br />
あまりにも速報すぎませんか。いえ、そんなことよりも、<br />
「．．．コーヒー飲んでる場合じゃなくね？」<br />
そう、そうです。それを言いたかった。<br />
<br />
<br />
何はともあれ、しっかり聞こえておりますので、お幸せを祈ります。<br />
今後は是非、彼氏さんともご来店くださいませ。<br />
<br />
<br />
20241121<br />
blue]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
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    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/33</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://bluecage.blog.shinobi.jp/text/15" />
    <published>2024-11-18T00:00:01+09:00</published> 
    <updated>2024-11-18T00:00:01+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>カフェにて - 01：カミサマの話</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[駅と大学を繋ぐ道から、一本外れた通りに面しているこのカフェで、私は店主としてコーヒーを淹れております。講義の合間や帰り道に立ち寄る学生さんが多いようで、有難いことに、ご用意した座席が学生さんで賑わう日々を過ごさせていただいております。大学の講義に合わせ、店休日は毎週日曜日、営業時間は朝早めの時間から夜遅くならない時間まで。大型チェーン店のようなお値段にはできませんが、その分、学生さんが長く在席されることは厭いません。美味しいコーヒーとちょっとした甘味を片手に、勉強をする人、本を読む人、楽しくお話する人、そんな学生さんを見ているのは楽しいものです。<br />
そして、お客様の中には、店主である私にも気さくに話し掛けてくださったり、旅行のお土産をくださったり、何年も店を開いていると、それはもう様々なお客様がいらっしゃいます。平生であればお客様の会話には聞き耳を立てておりませんが、そんな中でどうしても、この話題は印象に残ってしまったのです。<br />
<br />
<br />
「この世界に神様が居たらさー、何祈る？」<br />
<br />
週に一回程の頻度でご来店くださる、女性三人組のお客様たちです。たまに私にも話し掛けてくださる方たちではありますが、口調からすると私に向けられた話題ではありませんので、勝手には聞くまいと食器磨きに勤しんでおります。それでも私の好奇心は隠せず、彼女たちの会話が耳に入ってしまいました。<br />
「何それ、新手の宗教勧誘？」<br />
「そういうのはお断りー」<br />
学生さん同士の交流は喜ばしいことですが、さすがにそういった類のお話は、当店としましてもお断りしなければなりません。<br />
「そういうんじゃなくて、さっき哲学の講義でさー」<br />
ああ、なるほど。哲学の勉強には、宗教は付き物ですからね。無宗教と言われるこの国で、学問として興味を抱くことはとても大切だと思います。<br />
「ってか、そもそも神様って何？概念？」<br />
お客様、それは世界各所の宗教を敵に回す可能性がございます。<br />
「え、待って、ググる」<br />
今は何でも調べられる時代ですものね。とは言え、面倒になって調べない方も少なくないでしょうから、きちんと調べようという思いとその行動力は、賞賛に値するものかと思います。<br />
「Wiki見たら、めちゃくちゃ長文なんですけど。熱量やばー」<br />
「 "宗教信仰の対象として、尊崇、畏怖されるもの" だって」<br />
「そんすう、いふ．．．ああ、尊崇、畏怖」<br />
スマートフォンの画面を見せたり、ご自分でも調べたりしながら、お三方の会話は続いていきます。<br />
「そんすう読めるの、賢すぎるでしょ」<br />
常用される単語ではありませんので、音声だけでは伝わりにくいですよね。むしろ、私も調べたいくらいです。年々、読めるけれど書けない漢字が増えているように思えます。<br />
「尊いとか、崇めるとか、めちゃくちゃ宗教っぽい」<br />
「っぽいー」<br />
（神を語るうえで、宗教のお話は避けて通れないのでは？）<br />
．．．なんてツッコミは野暮ですよね。うっかり笑ってしまいそうになりましたが、私は食器を磨いている置物のようなものですので、どうぞ続けてください。<br />
「で、結局何なの？概念？」<br />
「それ二回目だしー」<br />
「え、でも概念っぽくない？」<br />
各々がご自分のスマートフォンを操作している間、度々会話が途切れては、思い思いに意見を交わされているようです。皆さま、勉強熱心でいらっしゃいますね。<br />
「宗教とか信仰とかあるけどさ、そもそも信仰ってよく解んないよね」<br />
「信じたり、崇めたり、祈ったり？」<br />
「心の支えにする人も居るし、生活を律する宗教もあるよね？」<br />
あー、と頷き合うように相槌を打って、お三方は再び手元に視線を落としたようです。私は磨き終えた食器を、大きな音を立てぬよう細心の注意を払いながら棚に片づけております。<br />
「．．．私、解っちゃったかもしれない」<br />
恐る恐るといった様子で、一人が静かな声を上げました。ここまで来ると、彼女たちの叩き出す結論が楽しみというものです。<br />
「尊くて、崇めて、たまに怖くて、．．．これ好きな人のことじゃん？」<br />
「え、待って、恋ってこと？」<br />
「かしこー。ほんとだ、恋じゃん」<br />
もう、私も、自分が飲む用のコーヒーでも淹れて参加してよろしいでしょうか。<br />
<br />
「で、何だっけ？神様が居たら何を祈るかって話？」<br />
そうそう、お話の切っ掛けはそこでしたね。<br />
「じゃあ、私のこと好きになってくれって祈れば良いのでは？」<br />
「それだわー」<br />
<br />
<br />
それも、ある種の信仰なのでしょうか。<br />
若い方たちの柔軟な発想は、真理を捉えているかのようにも思えました。<br />
<br />
<br />
20241118<br />
blue]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
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    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/32</id>
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    <published>2024-10-31T00:00:01+09:00</published> 
    <updated>2024-10-31T00:00:01+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>春がやんでも</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[例えばそれが、この季節だけの付き合いだとしても、<br />
春が終われば、全ては無に帰すとしても、<br />
<br />
「変わらないよ」<br />
<br />
自信ありげに呟いた俺を、彼女はちらりと見遣る。<br />
綺麗ごとを言うなと、目線で叱咤しながら。<br />
「春が已んでも？」<br />
ため息混じりに、呆れたと言わんばかりの声。<br />
それでも、話に耳を傾けるような姿勢で、彼女は俺の方を向いた。<br />
<br />
"已む" という単語をその字で表すことは、 "すっかり終える" という意味になると知ったのは、つい最近のこと。彼女の言葉には、様々な意が含まれていることが多い。<br />
「そう、やんでも」<br />
俺も同じ言葉で、同じように返してみるけれど、考えてしまう。<br />
彼女の言う言葉は、俺が発する言葉とは意味が違う。<br />
<br />
もっと深く、<br />
俺なんかにはよく解らない、<br />
色んな感情が巻き込まれた言葉たち。<br />
<br />
その様々な感情全ては、俺には到底理解できることは無いだろうけれど。<br />
でも、きっと、全てが已んでも消えない。<br />
<br />
春風が止んで、<br />
心を病んで、<br />
全てが已んでも。<br />
<br />
そう、君は居なくならない。<br />
俺が勝手に、そう信じたいだけだとしても。<br />
<br />
<br />
051224<br />
blue<br />
<br />
Theme by 『7』]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
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    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/31</id>
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    <published>2024-10-17T00:00:03+09:00</published> 
    <updated>2024-10-17T00:00:03+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>きんもくせい</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[あれから季節は一巡りして、朝晩に秋の風を感じるようになった。<br />
博士課程への進学が決まった折、真っ先に伝えたいと思い描いた相手は遥だった。けれど、就職して新しい環境に順応しようと勤しむ遥に、わざわざ連絡する程のことではないかと、私は入力しかけたメッセージを消したのだ。<br />
<br />
変わらず静かな古書店で、私は数ページめくった本を閉じて書棚に返す。今日も短くない時間をここで過ごさせてもらったが、心の中でこっそりと祈っている待ち人が店の扉を開くことは無かった。手元に残った数冊の本を、物静かな店主が座るレジへ持って行く。立ち並ぶ書棚の間をチラチラと見遣ったが、やはり、その姿は見当たらない。こんな平日の夕方に、私の待ち人が来るはずが無いことは解っていた。解っていながらも、夏の名残のような夕焼けの中、この足は自然と通い慣れたカフェへ向かう。<br />
互いが学生だった頃、毎週のように過ごしたあの時間は、遥の就職に伴って機会を失ってしまった。ある程度予測はできていた、当然の変化だ。あの頃は偶然重なった時間を、もしくは遥が精一杯重ねてくれた時間を、ただ享受していただけだったと思い知る。<br />
（いつでも会えるよ。）<br />
ああして言葉にすることで納得したかったのは、私の方か。当時、遥と交わした言葉を反すうしながら、夕日で足元に伸びる影を見つめたまま歩く。<br />
（私たちが社会人になっても、どこか離れた土地に赴任しても。）<br />
遥は無事に卒業して、世間に無頓着な私でも名を知っている企業に就職した。何かと連絡は貰うが、私は気の利いた返信もできないままだ。ただ互いが元気であることが解るだけの、簡素なやり取りばかり。私はカフェの扉を開き、一人で席に着き、飲み物を注文して、つい先刻買った本を読み始めようと一冊を開く。<br />
（遥は、意外と甘え下手だよね。）<br />
自分の言葉と苦笑いした遥の顔が、ぐるぐると頭を廻った。読み始めた本の文字列は滑るように流れて、一つも頭に入りそうにない。提供されたカップを傾けてカフェオレを一口飲んだところで、意図せずため息が零れた。甘え下手だったのは、自分なのかもしれない。居心地が良かったあの時間を取り戻す方法は、自分の知識では見当たらないまま。見積りが甘かった、という情けない思考が浮かんで、私は自省の念に駆られた。<br />
<br />
閉じた本を置いて窓の外を見遣ると、ライトを照らした車が通過していく。遥と交わした会話を断片的に思い返しながら、随分と日が短くなった、などと思った。<br />
（これも、恋の形の一つなのだろうか。）<br />
私の中に燻ぶり続けてきた疑問は、今になっても、もしくは今となっては、解らないままである。あの時遥が感じていた不安は、そっくりそのまま、私の不安でもあったということだ。一年という時間が過ぎてようやく身に染みたという、完全な周回遅れである。今更になって気付いたところで、もう、目の前の席に遥は座っていない。<br />
<br />
私が連絡をしたら、遥は休日を潰してでも顔を出してくれるだろう。その優しさを知っているからこそ、こんな、片付け方の解らない感情のために呼び出すことは憚られた。ただ、それは建前の話。<br />
そんな思考の横で、テーブルに置いたままの液晶画面がメッセージの受信を告げた。すぐに手に取って画面を開きたかったけれど、私は伸ばしかけた手を止める。私は私で元気にやってますよ、という振りをしたくて。そう、これが本音の話。<br />
<br />
自分のことを良く思ってくれた相手に対して、期待に添いたいのだ。そうして何度でも惚れ直してくれたら、ずっと傍に居てくれるのだろうか。そんな自分勝手な感情があることは、心の隅で自覚している。<br />
（そういうものでも無いか。）<br />
堂々巡りになる思考を止めようと、先ほど閉じた本を開き直す。今、この文字列が頭に残らなくても、無為に時間を過ごしてしまうよりは幾分良い。私はそう思うことにした。<br />
<br />
<br />
ふと顔を上げると、カフェの中は人も疎らになっていたことに気が付く。閉店の時間が近いのだろうか、などと申し訳無さを感じて本を閉じた。いつの間にかカップは空になっていて、没頭していた自分が過ごした時間の長さを思い出す。<br />
「ありがとうございました」<br />
会計を済ませた自分の背に、店員の優しい声が聞こえた。<br />
<br />
カフェを出た通りは、小さな街灯に照らされただけの薄暗い夜道だ。何度となく二人で歩いた、駅までの道のり。一人で歩くことにも慣れてきたはずの足は、見慣れない夜道を歩いているようにも思える。これを心細いと自覚して、会いたいという言葉を口に出せる性格であれば、一年以上経った今になって、こんなにも悩むことは無かったのかもしれない。もし、もう一度見かけることがあれば、私はその名前を呼んで、手を振れるのだろうか。聞き慣れたあの告白は、また聞かせてもらえるのだろうか。そして、私は「ありがとう」と言えるのだろうか。<br />
そうすることで繋ぎとめるような真似事ができるならば、幾らでも言うのに。<br />
いや、そんな言葉よりも、<br />
（自分も好きだと、言えれば良かった。）<br />
<br />
<br />
20241015<br />
blue<br />
<br />
====<br />
金木犀：謙虚、気高い人、初恋<br />
だから、私がさよならを言おう]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
  </entry>
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    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/30</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://bluecage.blog.shinobi.jp/text/13-02" />
    <published>2024-10-17T00:00:02+09:00</published> 
    <updated>2024-10-17T00:00:02+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>くちなし</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[通い慣れた古書店への道を歩きながら、ポケットから取り出した液晶画面を見遣る。表示された時刻を確認して、再度ポケットにしまった。梅雨の到来を待たずに照りつける強い日差しに目を細めて、歩く足元の路面に視線を落とす。転がっていた小石につま先が当たり、コン、と小さな音を立てて跳ねる小石の行先を見送った。<br />
「遥」<br />
呼ばれた声に顔を上げると、目的地であった古書店の前に立つ怜が、こちらに小さく手を振った。騒がしくないその仕草はいかにも怜らしいと思えて、高校時代に抱いていたイメージのままであることが何となく嬉しい。同姓の知人は距離感が捉えづらく、名で呼ぶ程の親しさでなくとも、姓で呼ぶことは憚られる。再会して間も無い頃は何と呼び掛けて良いかと口に出しあぐねていた怜が、躊躇いなく名で呼び掛けてくれるようになったのは最近のことだ。<br />
「待ってたの？」<br />
「いや、丁度来たところ」<br />
都度日時を決めているわけではないが、互いに学生であるからこそ、講義の空き時間が合えばタイミングも重なるというものだ。こと、自分にとっては、この曜日この時間に行けば会えるかもしれない、という思いが無いわけではない。正直に言えば、ある。<br />
<br />
古書店で過ごす時間は、互いに干渉はしない。思い思いに選書を終えた頃、相手の姿を探して、タイミングが合えば近くのカフェに立ち寄る。そんな緩やかな交流を繰り返して、数ヶ月が経った。今ではすっかり、お決まりのパターンだ。<br />
「院生って、いつから就活すんの？」<br />
「そろそろだよ。1年の夏からインターンとか」<br />
「論文書きながら就活とか、専攻によっては地獄じゃん」<br />
想像しただけでげんなりするような状況に、他人事ながら眉をひそめるしかない。この顔を見た怜は、「変顔チャンピオンここに現る」と笑った。他愛もない、実の無い会話と言えばそこまでだが、互いに楽しく過ごせるならば、それで良い。笑って、怜はカフェオレを飲んで、喋って、自分はコーヒーを飲んで、たまに会話が途切れては視線が合って。そんな時間を互いに心地よいと思えれば。どこかの歌で聞いたようなフレーズかもしれないが、 "幸せという言葉の意味を初めて知った" ような気がした。．．．なんて言葉選びは、少しクサすぎるか。<br />
「私は進学希望だからね。気楽なものだよ」<br />
「うへぇ、まだ勉強すんのか」<br />
自分は休学で一年の遅れを感じている分、早々に就職の意向を固めた。反して長年勉学に勤しむ怜の姿は、尊敬できると同時に、最早物好きとしか言いようが無い。<br />
「遥は、卒論順調なの？」<br />
「．．．ジュンチョージュンチョー」<br />
「急にポンコツになるね」<br />
あからさまな棒読みで返すと、小気味良い程に軽快なツッコミが入る。怜は楽しそうに笑って、手元のコーヒーカップを手に取った。<br />
「四年生はあっという間だよ」<br />
「何なら、五年間ずっとあっという間だわ」<br />
ふざけて耳をふさぐような仕草をすると、怜はまた微笑んで、店内のどこでもない場所へ視線を遣った。その所作は一つ一つが静かで、自分は度々、怜に惚れ直しているのではないかとさえ思えた。<br />
<br />
こうして少し先の話をするだけで、自分には自分の、怜には怜の時間が流れていることを改めて実感する。今は偶然重なった時間を過ごしているだけなのだと思い知って。今、この時間が楽しいからこそ、一年後、二年後にはどうなっているだろうかという不安もある。<br />
（あっという間なんだよな、ずっと。）<br />
移り変わる環境の中で、交友関係なんてものはすぐに入れ替わってしまう。春に卒業していった元同期たちは、この数ヶ月で連絡を取り合う習慣が無くなってしまったから、他の誰よりも実感できた。ほんの一年前だって、自分が怜と話す機会すら無かったのだから。<br />
そんなことを会話の外でこっそり思案していると、何かを見透かしたかのようにこちらを見つめる怜と目が合った。<br />
「いつでも会えるよ。<br />
　私たちが社会人になっても、どこか離れた土地に赴任しても」<br />
来るべき未来は何も恐れることは無いのだと、幼い子どもに諭すような柔らかい声で話す。<br />
「．．．唐突じゃん」<br />
「何となくね」<br />
怜の声は寄り添うように優しく、こちらの不安をさらりと流していく。大人しいように見えて芯がぶれないところも、緩やかによく笑うその表情も、あの頃自分が憧れた "田島怜" という人物像のままだ。そんな感情を他人事のように俯瞰して、また一つ好きなところを見つけたと笑みが零れる。<br />
「怜のそういうとこ、好きだわ」<br />
「それは有難う」<br />
だから、どうか、この席を誰かに明け渡すようなことがありませんように。<br />
（．．．なんて願いは、自分勝手すぎるか。）<br />
そんな身勝手な思いすら、怜には見透かされているかもしれないけれど。氷が溶けきったコーヒーを口に含みながら、ちらりと見遣った先で、怜がこちらを向いた。何度となく告げた好意にお礼を言われるようになったのは、ここ数ヶ月で我ながら進歩である。<br />
「遥は、意外と甘え下手だよね」<br />
超能力でも持っているのではなかろうか。怜との時間は、互いが声に出した言葉だけでは脈絡の無い会話になることがある。それでも違和感を抱かせないやり取りには、都度驚きを隠せなかった。空気が読めるとか、察しが良いとか、そういうレベルの話ですらない。小さくため息をついて苦笑いするしかなかった自分を見たのか、怜は少しだけ目を細めた。一瞬だけ過ぎ去ったその表情は、笑顔だったのか、他の意図を持っていたのか、自分には察することができないまま。ただ、あまり見たことが無い表情だな、と印象に残ったことだけは覚えている。<br />
（少し先の話に、怜も不安を覚えていてくれたら良い。）<br />
そんな恋の形もあるだろうと、答えを明確にしないまま、勝手な思いを抱いた。<br />
<br />
<br />
20241009<br />
blue<br />
<br />
====<br />
梔子：とても幸せです、優雅<br />
今が一番幸せと、言い続けられる日まで]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/29</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://bluecage.blog.shinobi.jp/text/13-01" />
    <published>2024-10-17T00:00:01+09:00</published> 
    <updated>2024-10-17T00:00:01+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>じんちょうげ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[私は、一冊の本を手に取る。<br />
時間の進みさえ緩やかになったかのような、静かな古書店で過ごす時間が好きだ。少し古い小説が並ぶ書棚の前に立って、丁寧に保管されて古びた様子を見せない背表紙を眺める。気の向くままに一冊の本を手に取り、開いたページにさらりと目を通した。<br />
「レイ？田島怜？」<br />
人の出入りが然程多くないその店で、自分の名を呼ばれて振り向く。同じ書棚の並びに、高校時代の同窓生だった人物、田島遥が立っていた。その手には、数冊の本を携えている。当時交流があったわけではなく、クラスも選択授業も、委員会や課外活動でも、何一つ同じになったことは無かったように思う。ただ、同姓ということで人づてに名前と顔を知っていたため、私が一方的に既知と思っていた相手だ。しかし、こうして声を掛けてきたということは、相手も同様に私のことを認識していたのだろうか。<br />
「田島、遥？」<br />
しかし、声を掛けてもらえたところで、小気味良い返答ができるような気が利くわけでもない。私も同じように、相手の名を問うように返すだけで言葉を発し終えてしまった。田島遥は私の顔、続けて私の手元を見て、また私の顔を見た。<br />
「そう、話すのは初めまして？<br />
　名前と顔は知ってて．．．って言うと、ちょっと怪しいか」<br />
「いや。似たようなものだから、解るよ」<br />
静かな店の雰囲気を壊してしまうことを恐れて、私たちは自然と抑えた声でやり取りをする。久しぶり、と言えるような共通の思い出があるわけではない。何より、自分たちの他に客が居る様子は無かったものの、会話を続けるには不向きな空間である。それを互いに察してか、それ以上に話題を膨らませる様子も無い。どちらからともなく「じゃあ」という素振りをして、田島遥はレジの方へ向かって行った。私は、先ほど開いて目を通した手元の一冊が、自分にとって魅力的だったか否かを失念して、もう一度その本を開いた。<br />
<br />
<br />
翌週、私は同じ古書店の前に立つ田島遥を見つけた。気付かぬ振りをして素通りすることも憚られ、私はその人物の前で立ち止まる。<br />
「寒くない？」<br />
「寒い。怜、本屋の後、予定あったりする？」<br />
全くの初対面という訳でもないが、付き合いの長い友人という訳でもない。少しの間が空いた後、私が返答に逡巡したことを悟ったかのように、田島遥は苦笑いをした。<br />
「変な勧誘とかじゃなくて。話、したいだけ」<br />
頭の回転が速くて、気遣いができる。人の輪に囲まれている姿を遠巻きに眺めた高校時代を思い返して、この人物がそうであった理由を理解できた気がした。為人は全く知らなかったが、意外と穏やかに話す人だな、とも思う。そして、よく知りもしない相手に対して、私が勝手な人物像を抱いていたことを思い知る。他者への気が回らない私とは異なる身の振りに、少なからずコンプレックスのようなものを抱いていたことを思い出しながら。<br />
<br />
そうして促されるままに入ったカフェで、温かいカフェオレを片手に顔を向き合わせることになった。何かに臆する必要も無いが、私は何となく目のやり場に困って自分の手元ばかりを見ていた。<br />
「高校の時、」<br />
騒がしくない店内に似合った落ち着いた声色で、田島遥が言葉を切り出した。私はその声に応じることを示すように、顔を上げる。<br />
「同じ苗字の奴が居るって聞いて、怜のこと知ったんだ」<br />
「私も。でも、話す機会は無かったよね」<br />
「そうそう。卒業して四年も経って、今更って感じだけど」<br />
解る解る、と頷いて、田島遥と目が合う。へらりと笑ったその顔を見て、私も小さく笑った。共通の思い出がある訳でもなく、弾む話題を探そうにも、四年も経てば高校時代の記憶すら薄れている。しかし、緩やかな会話が絶えることなく続いた。田島遥は話し上手であり、聞き上手でもある。共に居ることに、違和感や居心地の悪さを抱かせない。<br />
高校時代に相手を遠目に見ていたのはお互い様であったこと、話す切っ掛けが無かったこと、本屋で見かけたこと。それらをゆっくりと話しながら、たまに会話が途切れては微笑み合って時間が過ぎていく。<br />
（人たらし、と言うと少し言葉が悪いか。）<br />
そんなことを考えながら。それと同時に、自分には無いものを見せつけられているようで、私の劣等感は募るばかりである。こう在れるなら良かった、とさえ思わせる田島遥の人柄は、私の目に眩く映った。<br />
「でさ、もうこれは恋なんじゃないかって思って」<br />
「うん、．．．うん？」<br />
自分が会話の外で思案していたせいで、文脈を捉え違えたのかとさえ思った。相槌のように頷いたものの、動揺して同じ言葉で問い返すことしかできなかった。<br />
「ごめん、聞き違えたかもしれない。誰が、誰に？」<br />
「自分が、怜に」<br />
臆面もなく返すこの人物は、大仰な抑揚も無い声で愛を語る。まだ人物像すら見えていないものの、冗談と聞き流せる程ふざけている様子ではない。返す言葉を選ぶ間も、私は田島遥の顔から目を離せなかった。会話が途切れて、お互いの顔を見合って、これまでのペースを変えずに話が続けられた。<br />
「少し前に入院して、春休み明け、大学5年目なんだけど。<br />
　入院中にふと思い出したのが、窓際の席で本読んでた怜の横顔だったんだ」<br />
怪我でもしたのか、病気でもしたのか、などと問うべきか逡巡したものの、田島遥が話そうとしている本題に沿っていないように思えて、私は言葉を飲み込んだ。<br />
「そしたら、古本屋で会えたから。これは伝えなきゃ、って」<br />
思わぬ告白を揶揄するつもりはなく、私は呆れたような笑いがこみ上げた。<br />
「ふっ．．．ごめん、病床で．．．何で私？」<br />
店内は控えめな音量で音楽が流れており、それに隠れるかのように少しだけ笑って。私が顔を上げると、こちらを見る田島遥と目が合った。<br />
「我ながら謎だけど、話してみたい、ってずっと思ってた」<br />
「それは、」<br />
私も、と即座に返せれば良かったけれど。当時の、羨望に混ざった少しの劣等感が、一瞬だけ私の脳裏に過った。それでも、この好意を無碍に扱う理由にはならないか。<br />
「．．．私も」<br />
そんな、恋の始まりもあるのかもしれない。<br />
<br />
<br />
20241004<br />
blue<br />
<br />
====<br />
沈丁花：永遠、不滅<br />
この人と居る私がずっと続きますように]]> 
    </content>
    <author>
            <name>一緋月 青</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>bluecage.blog.shinobi.jp://entry/28</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://bluecage.blog.shinobi.jp/text/13-00" />
    <published>2024-10-17T00:00:00+09:00</published> 
    <updated>2024-10-17T00:00:00+09:00</updated> 
    <category term="text" label="text" />
    <title>ろうばい</title>
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      <![CDATA[私は、一冊の本を手に取る。<br />
時間の進みさえ緩やかになったかのような、静かな古書店で過ごす時間が好きだ。少し古い小説が並ぶ書棚の前に立って、丁寧に保管されて古びた様子を見せない背表紙を眺める。気の向くままに一冊の本を手に取り、開いたページにさらりと目を通した。<br />
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目を惹く書出しであれば手元に携え、そうでなければ元在った場所へ返す。それを数回繰り返して、手元に残った数冊の本を、物静かな店主が座るレジへ持って行く。そうしてレジに向かう途中、立ち並ぶ書棚の合間に見知った顔を見つけた。高校時代の同窓生だった人物が、自分と同じような所作を繰り返しているようだ。<br />
（わざわざ、声を掛ける程の用は無いか。）<br />
私は自分の思考だけで事を完結させ、会計を終えた本を手にして店を出た。<br />
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見かけた姿は、田島遥。高校時代、自分と同じ苗字ということもあり、人づてにその存在を知っていた。人と楽しそうに話す様子を、見かける度に眺めていたようにも思える。おそらく声を掛けても厭われはしないと思うが、自分は三年間を通して接点もなく、気の利いた話題を振ることもできそうにない。目が合えば会釈の一つでもできたかもしれないけれど、お互いに手元の本に集中している書店では、その機会も無さそうだ。<br />
人に囲まれるその姿を見てきた身として、気にならないと言えば嘘になる。ただ、その感情が綺麗なものばかりではないことも解っているので、今更積極的に関わろうとすることも難しい。高校時代の自分を振り返ると、それは羨望であり、劣等感にも思えた。<br />
（彼のような人になれたら、なんて思ったこともあったな。）<br />
いずれにせよ、もう昔のことだ。<br />
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目を惹く書出しであれば手元に携え、そうでなければ元在った場所へ返す。何冊目か解らない本を棚に戻した折、視界の端に、見知った人物が書棚の合間を通ったような気がした。私は顔を上げて、その人物が進んだ方向へ振り向く。少しの差だったのだろうか、書店の扉に付けられた小さなベルが鳴って、その人物の退店を知らせた。<br />
（わざわざ、追い掛けるもんじゃないか。）<br />
自分の思考だけで事を完結させ、次の本を手に取って視線を落とした。<br />
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見かけた姿は、田島怜。高校時代、自分と同じ苗字ということもあり、人づてにその存在を知っていた。静かに本を読む姿を、度々遠くから眺めていたようにも思える。高校の三年間を通して接点もなく、声を掛けられるような理由も、声を掛けるような理由も無い。目が合えば会釈の一つでもできたかもしれないけれど、お互いに手元の本に集中している書店では、その機会も無さそうだ。<br />
精悍な横顔を見てきた身として、気にならないと言えば嘘になる。ただ、その感情が自分本位なものだと理解しているので、今更積極的に関わろうとして良いものかも解らない。高校時代の自分を振り返ると、それは羨望であり、恋慕に似た好意にも思えた。<br />
（彼のような人になれたら、なんて思ったこともあったな。）<br />
いずれにせよ、もう昔のことだ。<br />
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同じ書店に出入りしているならば、また会うこともあるかもしれない。<br />
挨拶の一つでも、気の利いた一言でも、交わせるようになれたら良い。<br />
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20241001<br />
blue<br />
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蝋梅：慈しみ、先見<br />
きっと、あの頃からとっくに好きだった]]> 
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    <author>
            <name>一緋月 青</name>
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